今週もひどいドラゴンボールZ劇場版 銀河ギリギリ!!ぶっちぎりの凄い奴

セル戦後の話で、悟空は故人となっている。地球において、宇宙人も参加する武道大会が開かれるところから始まる。地球は宇宙に発達するほど文明は発達しておらず、宇宙人の存在も一般的には全く認知されていない、という世界観を完全無視。……と思っていたが、宇宙人ではなかったことが後に判明。さすがに地球の文明という根本的なところから世界観を破壊することはなかったようで安心した。

全体的に何かおかしい

この作品は序盤から設定的に首を捻るような話が多い。まずクリリンが「ヤムチャ天津飯なら何とかなる」と発言。どうも原作のクリリンとアニメのクリリンは性格が違いすぎて戸惑う。クリリンは、同じ地球人の仲間である彼等をバカにしたような発言はしないだろう。ましてヤムチャにはさん付けだ。原作ではブルマに敬語だったりタメ口だったりと統一感がないこともあるが、ヤムチャには常に距離を置いている。クリリンはこんなこと言わない。

さらにもっとおかしかったのがブルマだ。ブルマは賞品の温泉旅行のために、再び過去に来たトランクスに武道大会に出てもらったという。この大会の主催者は世界一の金持ちらしいが、カプセルコーポレーションのご令嬢もそこそこの金持ちである。無職の亭主に高額なトレーニングルームを提供しても何ら懐が痛まず、また数百億の価値はあるであろう特大のダイヤを、無償で仲間にくれてやる程度には裕福な家庭に育っている。わざわざ武道大会の賞品などをアテにする必要はない。温泉になど自社製品で飛んでいけばいい。

「ブルマが温泉旅行という賞品を欲しがる」ということに、スタッフが不自然さを感じない事に絶望する。せめて賞品が世界に一つしかない宝石とか、発明に使える金属とかならまだわかる。「一億ゼニーなんてどうでもいいんだけど、副賞の宝石が世界に一つしかないものなのよねー」で良かったんじゃないのか。「家族で温泉に行きたいから」って、勝手に行けよ……。一方チチが悟飯の出場を許可したのは、「勉強ばっかで根を詰めるのは良くないから」というものだった。いや、チチこそ金や温泉旅行を欲しがれよ。

ヤムチャは「借金してまで飛行機に乗ってきた」そうだ。なんで飛べるのに飛行機乗るんだ?ほんと、これはもうギャグとしても破綻してるぞ。ギャグだったら、「よく考えたら空飛べるのに飛行機に乗ることはなかったよな」というセリフまで必要だ。ヤムチャの金欠ネタを出したいのなら、参加費でも道着新調でもなんでもいいだろう。いくら戦闘力があっても参加費や道着はどうにもならない。ただ飛行機の代わりは舞空術でできる。

さらにピッコロはクリリンとの試合中、「もっと骨のある奴がいるかと思ったがもううんざりだ」と言って試合を放棄。この大会には悟飯やトランクスも参加している。それを知っているであろうに放棄。敵前逃亡としか思えない。それとも地球には未知の強豪がいると思ったのだろうか。未知の強豪が温泉と金目当てに武道大会に参加するか?いくらなんでもそれは考えにくい。となると、ピッコロが何を期待して大会に参加したのかよくわからなくなってしまう。銀河の戦士と戦いたいのなら勝ち進むべきだし、骨のある奴と戦いたいのならトランクスや悟飯と戦うべきだった。あの場面で放棄するなら、参加すること自体がおかしい。

キャラクターの動機や行動に破綻しているものが多すぎる。ここまで酷い脚本は劇場版では初めてだろう。全員何かがおかしい。賞金には目もくれないチチ、温泉旅行へ行くのに賞品をアテにするブルマ、過去に関わりまくるトランクス、仲間を馬鹿にするクリリン、行動全てが意味不明なピッコロ。何がなんだかよくわからない。

容赦ない

興味を引いたのはトランクスと天津飯という組み合わせの試合である。普通に考えれば勝負が成り立つはずはないが、超サイヤ人にならなければ一見条件は対等。少しくらい良い勝負をしても受け入れるつもりだった。実際少しは良い勝負になったものの、トランクスが何と超サイヤ人に変身。普段強敵相手になかなか変身しないのに、天津飯相手に限って変身するのは何故だ。そこは全く変身する必要はないだろう。それともそれだけ天津飯が強いのか。

銀河一

偽物の銀河戦士を殺し、本物の銀河戦士が大会に紛れ込んでいた。悪役の登場は劇場版では最も遅い。武道大会の銀河戦士とわざわざ入れ替わる意味は全くわからないが、恐らく意味などないのだろう。ボージャック一味の目的は北の銀河で最も美しい地球を支配することだそうだ。劇場版の敵はやたらに地球を褒めるが、どうも違和感がある。そこまで美しいか?サイヤ人のターゲットにされるくらいだから、それなりに価値はある星なのだろう。ただ「銀河一」は言い過ぎじゃないかね。地球なんて。

しかしそういえば、カタッツの子もわざわざ地球に避難していたのだった。ナメック星は界王が担当していない地域であり、北の銀河ではない。そう考えると、地球は辺境ながらも有名な星だったのかも知れない。カタッツの子が地球に来たのは、美しさがどうというより原住民が弱いからとか、近隣惑星が全てフリーザ支配下にあったといった理由も考えられる。

パワーバランスがおかしい

悟飯はボージャックの部下ごときに苦戦。ここは普通に強さを発揮してもらいたかった。仮にも悟空を超えたのだ。それも力を解放する前からである。それほど大差はないにしても、ベジータやトランクスとは比べ物にならないほど強いはずだ。それが敵の部下にも勝てないのは不満だ。勝てるべき敵には勝って欲しい。Z初期の劇場版ではそれができていたはずだ。

今回の敵は「ボスと複数の部下」というパターンが復活しただけに、味方側が優勢に戦う場面を期待していた。最近は一方的にやられる展開があまりに多かったからだ。しかし期待した展開にはならなかった。悟飯は誰も倒せない体たらくな有様だったが、トランクスは敵の部下を超サイヤ人になった途端撃破。心地よい展開だった。しかしそれが悟飯にはできない。相手が複数とか身動きを止める技を使うとか、そんなことは関係ない。トランクスが一対一で倒せるなら、悟飯は一対二で倒して強さを見せるべきところだろう。

今回は部下クラスが終盤まで生きているから、ストーリーが進んでいる感覚が薄く、ボージャックの強さも伝わりにくい。悟空が「甘ったれんじゃねえぞ!」と悟飯を一喝していたが、本当にそれはその通りだ。ボージャックに苦戦するのは良いのだ。部下に苦戦してどうする。悟空があの世からこの世に瞬間移動するというのは、世界観が崩壊しかねないギリギリのラインだったが、一瞬だけだから抵抗はない。あれくらいならご愛敬というものだ。むしろなかなか大胆な発想で好感が持てる。他のシーンは記憶に残らなくとも、このシーンだけはしっかり覚えているだろう。

悟空の喝で悟飯がパワーアップすると、あっという間に部下とボージャックを蹴散らした。「気を分け与えるか元気玉」パターンから脱却したと思ったら、今度は極端なワンサイドゲームである。こう、もそっと良い感じのパワーバランスにならないものだろうか。惨敗か圧勝ばかりではつまらない。

自分が期待していた筋書きは、悟飯その他が部下を苦戦しながら倒した後、ボージャックに追いつめられるという、何のヒネりもない王道展開である。「部下にも勝てねーボージャックにも勝てねー、けど覚醒して圧勝だぜーー!」っつーのは何かどうも、白熱できない。良い勝負をして欲しい。